ラーメン屋はドンブリ1杯で店が出せる!?
桜が満開に咲き誇る3月の下旬。花見客が大量に訪れ、桜の咲くエリアは連日深夜まで人混みで溢れる頃。
酔っ払い達の楽しそうな話し声が聞こえる片隅で、24時を過ぎた夜中になってもクックピットのオフィスには明かりが灯っていた。
従業員は全員帰った暗闇のオフィスの中で深夜作業を黙々とこなす男が一人いた。
クックピットの常務外園である。
新規プロジェクトの立ち上げのために連日一人で深夜作業を続けていたのだ。
そんな静まり返ったオフィスの扉を豪快に開ける音が響き渡る、
バァァァァーーンッ!!!
飛び跳ねて驚く外園に、ゲラゲラ笑いながら後ろから話しかけてくる男が、
「おーぅ、やってるなぁ!!」
そう言って訪れたのは、本間だった。
「・・・社長、マジで心臓止まるかと思いましたよ」
「なに? ビビった?ビビった?」
そう楽しそうに話す本間の頬は真っ赤に染まっている。
どうやら相当飲んで来た帰りのようだ。
「明かりがついていたから寄ってみたんだよ。頑張ってるなぁ」
そう言いながらいつも社長室に飾ってあるウイスキーをグラスに注ぎ始めた。
そのウイスキーはROYAL。
元々お寿司に合うウイスキーとして開発されたサントリーのお酒だ。最近の社長のお気に入りで機嫌がいい時は決まってこれを飲むのだ。
まだ飲むのかこの人は...とは思いつつも、
「どうやら今日もご機嫌のようですね」
「そうだよ、飲み過ぎちゃったよー」
そう言うとウイスキーを生のまま飲み干した。
「社長も手伝ってくれていいんですよ!仕事は腐るほどあります」
「ダメだ!今両手が塞がってる」
そう言いながら続けてお酒を注ぐ。
「両手に持ってるのは酒でしょ!まったく」
「ガハハハ!!・・・あれ?お前今タメ口きかなかった?」
そんなくだらない会話をいつものようにしていると、急に真面目な顔をして本間が話し始めた。
「なぁ、外園。ラーメン屋は丼(ドンブリ)1個で店が出せるんだよ」
また何かおかしなことを話し始めたぞ。
こういう酔っ払った時の本間からは、決まって面白い話が聞けるものだ。
仕事の手を止め、本間に視線を合わせた。
「俺たち板前っていうのはまず大量の皿が必要なんだ。
コースで考えても最低1席10皿は必要だ。この席数の最低3倍の量がいる。」
※本間は板前出身。
10席の和食屋でも最低300皿必要ということか。
「そして、俺たち料理人は皿で季節を表現し、お客様に楽しんでもらわないといけない。つまり春夏秋冬の4種類が必要なんだ」
つまり300皿×四季で1,200枚以上のお皿が必要なのか...。
「もちろんそこらで売ってる安い皿じゃダメだから、皿だけで1店舗店が持てるほどの金が掛かるわけだ」
「なるほど、では千万円以上のお金ということですね。そりゃ料理代金も高級になるのも仕方がないですね。」
「そうなんだ。つまりラーメン屋はドンブリ1つでいいんだ。
四季も何も関係ない、ラーメンはドンブリ1つで勝負ができる!どうだ、すごいだろう!」
確かにこれはなかなか面白い発想だぞ。
こんな視点で物事を考えたことなかったな。
「ところで社長、これをどう商売に繋げられますかね?」
「そうだなぁ。どっかの板前が皿買うくらいならラーメン屋始めた方がいいと考えてくれる人いないかなぁ...。いねぇよなぁ....」
「あまり多くはないですよね...」
「だよなぁ...」
「・・・」
「・・・じゃあ俺帰るわ」
それだけ言うと本間は静かに帰って行った。
嵐のような人だ。
だがこんなことは日常の外園は何事もなかったかのように引き続き作業を再開したという。
翌日社長室を覗くと、ウイスキーが半分まで減っていたのは言うまでもないクックピットの日常である。
さいごに
もし興味を持ってくれた板前さんいたらぜひご連絡ください。一度お酒を飲み交わしましょう!
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