トータルコントローラーになりたい！
外園 史明 FUMIAKI HOKAZONO
3月に入りたての頃。まだ日中は寒くまだギリギリコートが手放せないそんな日頃。
もうすぐ17時を回ろうかという時文、
「今日も疲れたねー」なんて談笑しながらパートさんたちも帰り支度を始めてる矢先のことだった。
バタァーーーンッ！！！
いつものように勢いよく扉が開かれた！
「おい、外園！俺たちはトータルコントローラーにならなければならないんだ！」
いつも通りの突拍子もない発言で勢いよく入って来たのは本間だ。
パートさん達の驚いた顔を他所に、慣れた日常の外園は冷静に答えた。
「・・・それって何かエッチな道具か何かですか？」
「バカやろう！俺がそんなこと考えるわけないだろ！へへ…」
否定はしつつも、なぜが顔がニヤけている本間であった。
「それじゃなきゃ、どういう意味なんですか？あと、なんでまだ17時前なのにハイボールを持ってるんですか？」
「これは違う！空き缶が落ちてたから今から捨てに行くところだったんだ、俺じゃない！」
慌ててハイボールを背中に隠しながら本間は捲し立てる。
「ふーん...。」
「まぁ、社長の仕事はもう終わってるから飲んでもいいんですけど笑 それで本題はなんですか？」
私たちの日常的な光景にパートさんたちは気にも止めずにそそくさと帰っていく。
「いいか、俺たち食品業界はトータルコストでどう利益を出すかという提案ができる会社でなくてはならない」
「原料の高騰や光熱費の高騰で、ただでさえ飲食は利益が出ない。」
「その中でうまくやりくりしながら、こだわるとこはこだわり、コストを落とせるとは見直していかなければならない。」
「うんうん。」
私は本間の話に相槌をうちながらメモを取る。
「そのためには、まず自分の時間をしっかり取ることが必要なんだ！」
「経営者はつい自分の時間も全て仕事に使ってしまいがちだが、それをやってしまうと自分の時間がなくなる。」
「自分の時間がないということは余裕がないということで、頭も固まってしまう・・・」
「自分の時間を作り、余裕を作り柔軟な思考ができる！」
「その結果、初めて経営者は先のことを考えた経営ができるのだ！」
そう捲し立てると、手に持っていたハイボールを一気に飲み干した。
「やっぱ飲んでるじゃないですかッ！！！！」
本間はお酒が入ってる時の方がいい発言やアイデアが出るのだ。
一日中酔っ払ってもらってた方が良いアイデアが無限に溢れるのではないかと日々考えるくらいだ。
「そこでだ・・・」
「・・・はい」
酒飲みの本間に呆れつつも、メモ帳から目を離し、今からの本間の言葉を聞き逃すまいと見つめる。
「余裕を作るために、俺来週沖縄出張入れていいかな？」
「言いたかったことコレじゃないですか！」
「まったく・・！回りくどい説明を！！」
「だって、最近寒いんだもーん」
甘えた顔を見せる66歳に根負けした外園は仕方がなく、翌週の沖縄出張を許可するのだった。
完全にバカンス気分でトランクケースに短パンを詰める本間はまだ気づいていない・・・。
沖縄で遊ばせすぎないよう、裏で外園が勝手に本間のアポイントを入れていたことを・・・。
そうして翌週ルンルン気分で出張に出かけた本間は、空港に着くなり取引先に囲まれ全く余裕を作るどころではなかったことは、また別の話である。
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